第54回観劇会(文楽)

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日程2025年5月17日
場所北千住駅前 シアター1010
演目「芦屋道満大内鑑」の内「葛の葉子別れの段」を中心とする準通し
参加29名

5月17日、第54回観劇会として、DF会員・家族・友人の総勢29名の参加を得て、2023年9月以来の文楽観劇会を催しました。会場は、北千住駅前のシアター1010(足立区芸術文化劇場)、狂言は1734年初演の「芦屋道満大内鑑」の内「葛の葉子別れの段」を中心とする準通し上演でした。

「芦屋道満」は、朱雀帝の御代、天変地異に乗じた宮中での権力闘争に巻き込まれた芦屋道満と安倍保名の二人の若き陰陽学徒の数奇な運命を描く物語ですが、道満の本筋は再演されなくなり、保名とその子、安倍晴明の生誕秘話の部分が独立して、「葛の葉の子別れ」として上演をされています。後世に名だたる陰陽博士安倍晴明は、その人智を超える能力故に、母を狐とする伝説が生まれ、浄瑠璃に取り入れられたのです。

この狂言の歌舞伎版は、2024年の正月観劇会の演目でしたので、ご覧になった会員の皆さんには、文楽と歌舞伎で同じ台本の表現・演出が、どう違うかも興味あるところだったでしょう。

人形浄瑠璃の歌舞伎化は、単に人形が人間に替わるのではなく、それぞれの表現力の優位性を競い合うことだったのです。歌舞伎では、狐の化けた葛の葉が、正体が明らかになって、我が子との別れに遺す「恋しくば尋ねきて見よ和泉なる信田の森のうらみ葛の葉」の歌を真っ白な障子に曲書きをします。筆を右手で、左手で、そして口に咥えて。歌舞伎役者は自らの修練・鍛錬によって「曲(芸)書き」という「芸」を実現し、後世に継承しました。

一方文楽では、人形の身振り、足さばきに生身の人間を超えた身体表現を与えることができます。人間と狐の境を漂うような微妙な狐葛の葉人形の動きが印象的でした。18世紀の前半のなにわの道頓堀で人形浄瑠璃と歌舞伎が軒を接して、人気を競っていた様子が目に浮かびます。

御参加の皆様は、織大夫、千歳太夫の美声と体全体を使っての声量に魅惑され、又、「まるで生きているような人形の動き」に感嘆されていました。文楽は、「芸」あるいは「芸の力」で観客を魅了します。語りの太夫、三味線弾き、人形遣いが各々の「芸」をぶっつけ合います。三者を統合指揮する者は有りませんが、混沌はなく、緊迫した統一があります。この統一とは、三者が、愛しい我が子と別れねばならない母狐の悲しみを、それぞれの「芸」によって表現しようと競い合う事から生まれるのではないでしょうか。

今回、三人の方が文楽初体験だと伺いました。文楽のフアンが増えることは大変うれしいことです。文楽観劇をプログラムに採用しているのはDF歌舞伎同好会の特徴です。現在上演される歌舞伎演目の35%近くを、人形浄瑠璃を歌舞伎化した「義太夫狂言」が占めています。古典歌舞伎を理解するためには、文楽の観賞がどうしても必要なのです。

18人の参加を得て、「はなの舞 北千住店」で懇親会を催しました。DF会員のお友達にも、御参加していただきました。同好の仲間の輪が拡がっていくことはうれしいことです。
文楽の歴史、人形の進歩の歴史についてのレクチャーをさせていただきました。お役に立ったでしょうか。

次回は、9月20日の新国立劇場の歌舞伎公演を予定しています。ご家族、お友達にもお誘いの上多数のご参加をお待ちしています。                             

以 上(神村安正)

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